常時微動とは
普段,地震などが起きていない時でも,建物は人が感知できないほどの小さい振幅で揺れています。その揺れのことを“常時微動(じょうじびどう)”と呼んでいます。“常時(つねに)起きている微小な振動”を略したようなイメージです。住んでいる家の近くを電車や大型の車両が通過したり,工事などが行われている場合には感知できるレベルの振動になる場合もあります(その場合には“環境振動”と呼称して区別したりします)。
振動源としては様々なものがあり,自然現象由来のものとしては下の図のように,構造物に直接風が当たることで揺れたり,波や火山活動や地殻活動で地面が揺れることで揺れたりします。図には書ききれませんでしたが近くを河川が流れている場合も振動源になり得ます。
地殻は地球内部の温度差に起因して動き続けています。内側に行くほど温度が高く,溶けた物質が浮き上がり,地表に近づくにつれて冷えて固まり沈んで行く現象(対流)が起きています。それが結果として火山活動となったりします。海溝と呼ばれる,右側の地殻と左側の地殻が重なった海底の所に向かって地殻が動いて行く時にも地面が揺れますし,累積したひずみが解消される際の大きな揺れは地震となります。手のひら同士を強く押し当てて片方を上にもう片方を下に動かそうとすると皮膚が引っ張られますが,その状態から手のひらをぱっと離すと皮膚が元に戻りますよね。累積したひずみが解消されるイメージはそんな感じですが,手のひらが地表と考えると大きな振動源になります。また,海溝のところだけでなく地層内部に生じたひずみが解消されることでも地面が揺れ,一定以上の大きさのものは地震として観測されます。
常時微動と地震による振動の話になりますが,振幅の大きさは違えど両者には共通点があります。
それは,どちらもほぼ同じ周期で揺れるということです。より厳密な言い方としては,建物のかたさや重さによって決まる固有周期は,常時微動の時と地震の時とであまり変わらないということです。この固有周期は地震の時に建物がどのくらい揺れるかを知るためにとても大事な指標なのですが,対象物の常時微動を上手く計測できれば,地震が来た時にどのくらい揺れるかを知るのに役立てることが出来ます。常時微動は振幅が小さいので,計測や分析は地震の時のものと比べて難易度が上がりますが,地震が来なくても固有周期を推定できるため,地震が来る前に“来たらどのくらい揺れるか”を把握できる点で有用性があります。
余談になりますが,常時微動は英語で“ambient vibration(直訳:周辺の振動)”と記述する場合と,“microtremor(直訳:微動)”とする場合があります。ambient vibrationの方は,“周辺の様々な振動源によって揺らされたことで観測される対象物の振動”のニュアンスがあります。microtremorの方は,単に“振幅の大小に注目した際の微小な振動”というニュアンスを含みます。冒頭に述べた環境振動は,ambient vibrationと訳されることと併せるとより理解が深まるかもしれませんね。